ー「国際地域学科」という挑戦【中】ー北海道教育大学函館校の現状と課題

教育

2018/08/02

国際地域学科の「過去」

北海道教育大学函館校(以下、函館校)は、2014年に従来の人間地域科学課程を再編し、国際地域学科を開設した。この改革から4年が経ち、2018年3月には新学科初の卒業生を社会へと送り出した。そんな函館校の現状と課題は何なのか、教育課程が一巡した今だからこそ検証すべきではないだろうか。そこで、函館校キャンパス長の後藤泰宏氏に、国際地域学科と函館校の「現在」「過去」「未来」についてインタビューを行った。今回はその【中】として国際地域学科の「過去」に焦点を当てた。

函館校のキャンパス長、後藤泰宏氏(左)

 

現在の函館校は「教育学部 国際地域学科」です。なぜ「国際地域学部」ではないのでしょうか?

実は、5~6年前には「国際地域学部」にする構想がありました。しかし上手くいかず、「学科」に落ち着いたというのが本当のところです。その要因の一つとして、学部化の構想があった時に、教員養成機能をどうするか、ということになりました。当時の計画では、国際地域学部を設置し、教員養成機能を無くす方向で検討が進められていました。

ただ、地域の活性化にとっては学校教育も大切ですし、道南地域における教員養成機能は重要です。それに、函館校には大学の他に附属学校園[1]があります。国際地域学部を作り、教員養成機能を無くせば、当然ながら附属学校園を置くことは難しくなります。そうなると、結果として地域に対するダメージが大きいことになります。実際、地域からの陳情や反対もありました。

上空から見た北海道教育大学附属校園(函館地区)

上空から見た北海道教育大学附属校園(函館地区)

 

また、一方では文部科学省(以下、文科省)のいわゆる「新課程」[2]を無くしたいという意向もありました。函館校は北海道教育大学の中で、以前から教員養成に特化しない課程を担当していました。これは、つまり大学としての函館校の存続危機を意味します。

詰まるところ、新課程の学部化を目指したが上手くいかなかった。だけれど、戻ることもできない。そこで、「学科」というギリギリの形になったということです。

 

他の「国際地域」の名前が付く大学の多くは、学部化しています。

 本当は「学部」が一番いい。けれど、先ほど申し上げたように函館には附属学校園もあるし、当時の政治的な問題もあったそうです。最終的には「学科」でいきましょう、ということになりました。生き残るための策ですね。

中途半端だとする向きもあるでしょう。文科省の中にも似たご意見があるかもしれません。恐らく、大阪教育大学と北海道教育大学だけが学科を持っています。東京学芸大学などにも似たようなものがありますが、国際地域のような取り組みをしていながら、学部ほどの規模で、尚且つ学科なのは本校だけです。

 

では、なぜ他の学科ではなく函館校に「国際地域学科」を設置したのでしょうか?

当時トレンドだった「国際」と「地域」をつなげたということはあるでしょう。学科の前身である「人間地域科学課程」が設置された2006年頃から、大学の役割が問われるようになっていました。国立大学は、最先端の研究を行い国際的に打って出る大学と、地域に根差して課題解決に取り組むなどの大学と、大学間で機能分担せざるを得なくなりました。その中で選んだのが「地域性」でした。これは北海道教育大学が全体として目指したものです。

かつ、函館校が「函館」という街の特質を生かすとなると、観光や国際に目が向いたわけです。今もまだそうですが、新学科設置を検討している当時も留学生の受け入れ、送り出しの拡大というのが国の観点の中にあったので、「国際」と「地域」をつなげたというわけです。

構想では「地域学科」というのもありました。本校のカリキュラムから見てみも、国際性を打ち出しにくいからです。ただし、地域学科だと収まりはいいが「地味だ」という意見もあった。地域の受験生にとってもキャッチーではないですね。それに、よく考えると地域の再生には国際的視点が大事だと分かってきた。そういった点も含め、文科省と相談を重ねていく中で「国際地域学科」で行きましょうとなったわけです。

ただ、本当に難しい問題ですよ。今なら「国際地域学科」のような名前は使えないし、許可が下りないのではないでしょうか。また、「グローバル」といったカタカナの入った学科名は、私立大学には使われますが、国立大学ではあまり使われていません。当時も躊躇するところがあったようです。

今は文科省の方も改革の動きを止めてくれません。大学が新しい取り組みを、その都度打ち出すことで予算が付くという現実があります。もし次の課程改組があれば、その時はどういう名前になるかわからないな(笑)

 

【下】へ続く!→

 


北海道教育大学函館校 年表

  • 1875(明治8)年5月15日
    函館小学教科伝習所の設立許可
  • 1876(明治9)年2月8日
    函館小学教科伝習所開校
  • 1880(明治13)年10月20日
    官立函館師範学校と改称
  • 1882(明治15)年2月8日
    県立函館師範学校と改称
  • 1886(明治19)年10月18日
    北海道師範学校函館分校の設置
  • 1912(明治45)年6月3日
    北海道函館師範学校を設置し、1914(大正3)年の開校を認許
  • 1914(大正3)年4月9日
    北海道函館師範学校第1回入学式挙行
  • 1943(昭和18)年4月1日
    北海道第二師範学校と改称
  • 1949(昭和24)年5月31日
    北海道学芸大学函館分校として発足
  • 1966(昭和41)年4月1日
    北海道教育大学函館分校と改称
  • 1988(昭和63)年4月1日
    総合科学課程設置
  • 1993(平成5)年4月1日
    北海道教育大学教育学部函館校と改称
  • 1993(平成5)年4月27日
    大学院教育学研究科発足
  • 1999(平成11)年4月1日
    学校教育教員養成課程、情報社会教育課程、生涯教育課程、国際理解教育課程、芸術文化課程の設置
  • 2004(平成16)年4月1日
    国立大学法人北海道教育大学教育学部函館校となる
  • 2006(平成18)年4月1日
    人間地域科学課程設置
  • 2014(平成26)年4月1日
    国際地域学科設置

(北海道教育大学函館校ウェブサイト「歴史と沿革」より作成)

北教大函館校:第二師範学校当時の校舎

北教大函館校「第二師範学校」当時の校舎

北教大函館校:師範学校当時(自習時間)

北教大函館校:師範学校当時(自習時間)

北教大函館校:師範学校当時(布団干し)

北教大函館校:師範学校当時(布団干し)


[1] 北海道教育大学附属学校園のうち函館地区には、附属函館幼稚園、附属函館小学校、附属函館中学校、附属特別支援学校の4校園が置かれている。

[2]卒業要件に教員免許の取得を義務付けていない教育学部の課程を指す。一般には「ゼロ免課程」と言われることもある。

 

【参考ページ】

国立大学法人北海道教育大学函館校 http://www.hokkyodai.ac.jp/hak/ (閲覧日:2018年7月10日)